このたび、「灯光舎」という 

小さな看板を背負い、出版という大海原へ大冒険に出ることになりました。 

少しずつではありますが、一歩一歩を着実に踏みしめていきたいと思っています。

この本づくりという歩みを進めるうえで、三つの柱を重視したいと思います。

 

「人びとのアイディアや思いを大切にする」

「共感したことを丁寧に表現し、本というカタチにしてゆく」

「読者へ届けることに尽力する」

 

これらを誠実かつ忠実に遂行していきたいと思います。

 

このような、至極「当たり前」のように思えることは、

えてして閑却されがちですが、あえて活動の軸としました。

  

本の価値が問われる時代だからこそ、

このような「当たり前」をきちんと実践していくことが重要だと思われたからです。

  

本を介して、他者のアイディアと自分がつながったとき、ちいさな感動が生まれる。 

その感動が次の行動の原動力になる、なんていうこともあったのではないでしょうか。

 

本というものは、ほかの人のアイディアを含め、他者と自分をつなぐ「橋」であり、重要な媒介です。  

このような、丈夫で、末永く人びとをつないでいく「橋」を創ることが、小社の大きな目的です。

   

時代を経るごとに、情報伝達の速度は急激に加速し、その量も膨大になり、

身のまわりでは無暗に情報が飛び交っています。ときには本人の意思とは無関係に、

情報を与えられてしまうこともあるでしょう。 

 

人類は情報を得たり、共有したりするのに驚くほどの利便性を獲得しました。

しかし、その利便性は、ときとして人びとの「思考の活動」を奪いかねません。

  

本来じっくり考えるべきであるはずのことが、吟味する余地を与えることなく、

「答え」であるかのように飛び込んでくる――これでは、人の思考力はどんどん衰弱してしまうのではないでしょうか。

  

本は自分の思考を育ててくれるものです。

本を書いた人の問題意識にふれ、それに向き合い、そしてそれについて思いをめぐらす。 

たった1冊の本が、自分自身のなかに隠れていた思いや考えを刺激し、呼び覚ましてくれるかもしれません。 

本は思考の種の栄養になるのです。

  

そんな1冊の本はさまざまな人びとの力が合わさってできあがります。

書き手や出版社のほかにも、デザイナーの方、印刷所の方、紙を扱っている方、

製本する方、書籍を読者に届けてくれる本屋さん、そして読者のみなさん……

  

一つの本ができあがるまでのあいだに、さまざまな人の手に渡り、

それぞれの思いやアイディアが編み込まれ、読者の方々の思いや思考へとつながっていく。

そのなかで、出版社として忘れてはならないことが先ほどの三つの柱なのです。

  

昨今、出版業界を取り巻く話題に明るいものは多くありません。

若い人びとの読書離れ、雑誌の相次ぐ廃刊、インターネットの台頭など、

出版業界はもはや期待されていないのかもしれません。

 

しかし同時に、ここ数年で、小さくともそれぞれに色をもった出版社が誕生したり、

独自の路線を切り拓いていこうとする本屋さんが生まれてきたり、

興味深い活動も目立ってきています。

こうした活動は出版業界に新たな希望を投げかけているようにも思われるのです。

 

こうした展開の一つになるべく、弊社も微力ながらも、永く誠実に活動していきたい。

 

そして、私たち自身が心を躍らせながら活動していきたい――くらーく、果てしない世界を、

小さくとも明るく灯す、その一つの火となれるように。

 

 

201963

 

 代表 面髙 悠